大判例

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大阪高等裁判所 平成9年(ネ)3008号 判決 1998年5月27日

控訴人

株式会社甲ハウス

右代表者代表取締役

甲野花子

右訴訟代理人弁護士

竹内敦男

被控訴人

大東京火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

小澤元

右訴訟代理人弁護士

島林樹

影田清晴

大東恭治

被控訴人

三井海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

井口武雄

右訴訟代理人弁護士

天野勝介

飯島歩

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

被控訴人大東京火災海上保険株式会社は、控訴人に対し、七五三八万九四〇八円及びこれに対する平成六年四月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

被控訴人三井海上火災保険株式会社は、控訴人に対し、三四六一万〇五九二円及びこれに対する平成六年四月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被控訴人ら

主文と同旨

第二  事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三頁一五行目の「本件建物について、昭和六〇年二月二九日、」を「本件土地建物について、昭和六〇年二月二七日、」と改める。

2  同三頁二三行目の「竹下與一」の次に「(以下「竹下」という。)」を付加する。

3  同六頁一五行目の「株式会社甲ホーム」の次に「(以下「甲ホーム」という。)」を付加する。

4  同一一頁二二行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「六 争点1に関する控訴人の反論

以下のとおり被控訴人らの主張する事実を認めることができないから、本件火災が甲野又は同人の指示を受けた者による放火によるものであると推認することはできない。」

1  丙野春子(以下「丙野」という。)は、二〇年以上控訴人の事務員を続け、控訴人の経理一切を担当し、甲野から控訴人の所有する建物について火災保険契約を締結することを任されていたことから、本件建物について被控訴人三井海上と本件保険契約(二)を締結したが、その旨を甲野に知らせないまま平成五年七月二四日に控訴人を退職した。そのため甲野は、本件建物につき本件保険契約(二)が締結されていることを知らないで、本件保険契約(一)を締結した。

丙野が甲野に本件保険契約(二)の締結について相談していれば、甲野としては本件建物につき既に平成五年三月二九日に控訴人から竹下に所有権移転登記が経由されている以上、同保険契約のうちの契約の更新をせず、竹下に保険契約をさせていたはずである。

2  甲野は、本件土地建物を転売目的で購入し、転売するまでの間は控訴人及び関連会社の保養施設として利用することとしていたのであり、本件建物につき被控訴人大東京火災の橋本代理店の査定により本件保険契約(一)のうち当初の保険金額八〇〇〇万円の契約を締結し、同代理店から改築すれば保険金額三〇〇〇万円を増額するといわれて、乙山に内装工事を請け負わせ、右工事に着手した後に本件保険契約(一)のうちの三〇〇〇万円の保険金額を増額する契約を締結したものであるから、本件土地建物を所有する控訴人の実質的代表者として当然のことをしたものである。

本件保険契約(一)のうちの保険金額増額の契約を締結した直後に本件火災が発生したことは偶然にすぎない。

また、甲野が乙山に内装工事を請け負わせたのは、乙山が甲野の知人であって、工事費用を最小限に抑えるためである。

3  控訴人は、本件火災の発生する前の平成四年九月二一日から同五年九月二〇日までの平成五年度は売上げ総利益一〇一二万六七四八円、営業利益二九〇万八〇三九円、経常利益一二三万三三一八円をあげており、バブル経済が破綻した後の不動産業の経営としては比較的安定していた。

4  甲野が、本件火災の発生の約一年前に車両盗難による保険金を受け取り、発見された盗難車両を引き取らず、保険金を返還しなかったのは、盗難車両が二か月も他人の手に渡っていたから引き取る気がしなかったからであって、甲野の右行為に不自然なところはない。」

第三  争点に対する判断

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきであると判断するが、その理由は次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一二頁七行目の「この点、」から同二四行目末尾までを次のとおり改める。

「控訴人は、本件保険契約(二)は、二〇年以上控訴人の事務員を勤め、経理一切を担当し、甲野から控訴人の所有する建物に対して火災保険契約を締結することを任されていた丙野が、甲野が知らないうちに被控訴人三井海上と締結し、これを甲野に知らせないまま退職したから、甲野は、被控訴人大東京火災と本件保険契約(一)を締結する際、本件保険契約(二)が締結されていることを知らなかったと主張し、原審における証人甲野の証言及び乙九、一六(甲野の陳述書)には右主張に沿う証言及び供述記載部分がある。

しかしながら、丙野が二〇年以上控訴人に勤務し、控訴人の経理事務その他一般の事務を担当していたとしても、控訴人が不動産業者で、転売目的の建物を所有していることからすると、控訴人の火災保険契約締結の要否につき一事務員の裁量にゆだねられていたとは通常考え難いところであり、特に、本件保険契約(二)のうち平成五年六月三〇日に更新の契約がなされた当時、本件建物につき代金の支払がないまま既に控訴人から竹下に所有権移転登記がなされていたことに徴すれば、経理等担当事務員にすぎない丙野が、このような場合につき火災保険契約を更新することの要否を自己の責任で判断することはできないと考えられるから、同人は甲野の指示を受けて右更新の契約をしたとみるのが相当である。したがって、これに反する甲野の前記証言及び供述記載部分は到底採用できず、他に(1)の認定に抵触する証拠はない。」

2  同一四頁三行目の「放置され、」の次に「竹下に転売しようとしたが成功しなかった以外に具体的な」を付加する。

3  同一四頁一二行目の「転売や賃貸の目的」を「具体的な転売又は賃貸の予定」と改める。

4  同一五頁二行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「控訴人は、甲野が本件保険契約(一)の保険金額合計一億一〇〇〇万円は、被控訴人大東京火災の橋本代理店の査定によるものであるから不自然なことはないと主張するが、前示のとおり甲野がその前に保険金額五〇五〇万円の本件保険契約(二)を締結したことを知っていたことからすれば、本件建物の時価に比べて総保険金額が異常に高過ぎることは明らかであって、控訴人の右主張は採用することができない。

控訴人は、本件建物を転売し、転売するまでの間は控訴人及び関連会社の保養施設として利用するため、乙山に本件建物の内装工事を請け負わせたと主張し、証人甲野の証言及び乙九、一六(甲野の陳述書)には右主張に沿う証言及び供述記載部分がある。しかしながら、控訴人が右工事を依頼したのは、前記のとおり竹下に対する転売が不成功に終わった後であり、かつ右工事を依頼した当時控訴人には具体的に本件建物を転売したり賃貸する予定はなかったものであって、しかも本件建物を取得してから右工事に着手するまでの約四年間にわたって本件建物を保養施設として使用した形跡もないことからすると、甲野の前記証言及び供述記載部分は採用できず、控訴人の右主張は採用することができない。

控訴人は、本件火災の発生する前の平成四年九月二一日から同五年九月二〇日までの平成五年度の控訴人の売上げ総利益は一〇一二万六七四八円、営業利益は二九〇万八〇三九円、経常利益は一二三万三三一八円で、利益をあげており、バブル経済が破綻した後の不動産業の経営としては比較的安定していたと主張し、甲一六の中谷恒行の陳述書添付の控訴人の平成五年度の決算報告書には右主張のとおりの記載がある。しかしながら、前記のとおり、右報告書に主たる資産として記載された販売用不動産の価格は取得価格で計上され、バブル経済の破綻による不動産価格の下落を反映していないこと、控訴人は、本件火災当時、約九億円の借入金があってその利息の支払を遅滞しがちであったことからすれば、控訴人の右主張は採用することができない。

控訴人は、甲野が、本件火災の発生の約一年前に車両盗難による保険金を受け取り、発見された盗難車両を引き取らず、保険金を返還しなかったのは、盗難車両が盗難後二か月も他人の手に渡っていたから引き取る気がしなかったからであって、甲野の右行為に不自然なところはないと主張する。しかしながら、甲野は、前記のとおり、盗難後二か月して発見され、一〇〇〇万円で売却処分することのできる価値のあった盗難車両を引き取らず、既に受領した保険金二八〇〇万円を返還しなかったというものであって、甲野の右行為は、保険金に執着した強引な行為であるといわざるを得ないから、控訴人の右主張は採用することができない。」

二  以上の理由によれば、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。したがって、控訴人の本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 武田多喜子 裁判官 見満正治 裁判官 礒尾正)

別紙物件目録<省略>

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